どっかの馬鹿の妄想と生活と創作についての雑記。
∴ 蛇女。 「ねえ、結婚してちょうだい」
「ああ、そのうちな」 「子供も欲しいわ」 「ああ、そのうちな」 「私を愛していないの?」 「愛しているさ、まだ夫婦になるには早いと思うのだ」 男は今日も迫る蛇女の言葉をのらりくらりと交わす。視線は合わさず、どこか遠くを見つめながら。 彼女は少し陰気な雰囲気がありながらも美しかった。美しい、美しいのだが彼女は人ではなかった。 妖怪だった。 山で一匹の蛇を助けたのが切っ掛けだった。蛇を一度も殺したことがないことも要因だった。その日から女が付きまとい嫁にしてくれというようになった。 最初こそ狼狽えはしたが美しく品のある女だ。別段断る理由もなかった。 とりあえず父に紹介がしたいというので男は山の深くへと足を運ぶ。曲がりくねった道を進み、沢をいくつか越えたあたりに大きな屋敷が現れた。 屋敷ではでっぷりと越えた大きな男がカカッと笑い男を出迎えた。 「君は一度も蛇を殺したことがないそうだね」 「はあ、殺生はあまり好かんので。それは蛇も虫も同じです」 「そうかそうか。非の打ち所のない男だ。よく選んだものだ、娘よ」 「当然ですわ、ほほほ」 「蛇を殺したことがあったらワシが喰ろうておったところだったのに……」 「え?」 「はっはっは、冗談だ。さあ飯にしよう」 顔は笑っているが目は蛇のそれだった。 女中が小さな配膳台を運ぶ。その上には足が縛られた野ネズミや羽をむしった小鳥。まだ生きている。 「あのう、これは一体……」 困り顔で男が顔を上げると娘とその父は当たり前のように蛇を丸呑みにしていた。 「どうしたね? ささ、君も一呑みにしなさい」 「生きがいいわよ、今日のは」 「いえ、今日は何だかお腹いっぱいで、その私は。そうだ、娘さんどうぞお食べなさい」 「婿殿は遠慮深いな」 「あらあら、じゃあ頂こうかしら?」 しっぽを掴み、喉にぽいっと放り込んだ。ごくりと喉の音。 少しトイレへと席を立つ。 「なんだあれは……」 一見人に見えるがその実、蛇のそれではないか。 どうしようとトイレから出る。ふいに香の匂いが鼻をくすぐった。 横をみれば妙に艶っぽい娘が唇に手を当てて男を見ていた。 「いい男じゃない」 「失礼」 どうせ蛇なのだろうと男は通りすぎようとした。しかし女は手を掴み行かせはしない。 「あらあら、せっかちだね。お兄さんあたしと遊ばないかい?」 するりするりとまとわりつくように女は男の肌を撫でる。赤い舌がちらりと口から覗く。 男はもしかして自分を取って食おうとしているのではないだろうか、と思った。そうなると先ほどのことも説明がつく。太らせて食おうとしていたのだと。 男は「ふざけるな」と一喝すると「こんなとこ二度と来るか」と叫んで家に帰った。 翌日の夜、娘が家にやってきた。陰気な顔はどこか嬉しそうだ。 「昨日の試練、あなたならきっとそうするだろうと信じていました」 「何の話だ。帰ってくれ」 「昨日のあれは父の手のものです。色香で男を誘う玄人なのですが、あなたはそれを一蹴なさった。それにネズミを食わず、殺生を拒んだ上に空気を悪くしなかった。父はそれをたいへん喜んでおります。是非、婿にと」 「……そうか。あれは試練だったか」 「はい、婚姻の式のさいは鶏の踊り食いを用意するといってしました」 男は静かに落胆した。 そして今日ものらりくらりと交わす。 「ねえ、結婚してちょうだい」 「ああ、そのうちな」 「子供も欲しいわ」 「ああ、そのうちな」 「私を愛していないの?」 「愛 しているさ、まだ夫婦になるには早いと思うのだ」 PR ∴ この記事にコメントする
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幸せになりたいと思うけど、幸せを手に入れた瞬間、幸せを失うことを意識しなければならない。いつか消えてしまうことに怯えなければならない。だったらずっと不幸のままでいい。
あとネットで小説とか書いてます。ヤンデレとか好きです。
∴ プロフィール
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鬱
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125
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非公開
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1900/06/07
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ニート→ライター(笑)→ニート
趣味:
読書、アニメ、映画鑑賞、引きこもること
自己紹介:
幸福論でいけば確実に不幸な人間です。それに加えて変人です。自分ではそうは思わないのですが、みんなが口を揃えて変人というので多分そうです。人間関係苦手です。そんな名古屋人。
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