どっかの馬鹿の妄想と生活と創作についての雑記。
∴ ぼくと姉さん。 「もう……大丈夫。もう大丈夫よ。これで、もう誰もあなたを殴らない、もう誰も傷つけない。ねえ、何で泣いてるの? これはあなたを傷つけたのよ、だから――――」
僕の姉さんが異常者であることは誰もが疑わなかった。姉さんを少しでも知っている人ならば、みな口々に姉さんが異常であることを認めたと思う。 普段こそ僕のように顔に笑みを張りつけ、穏やかな雰囲気を醸し出しているけれど、やはり姉さんは全体の中で際立った何かを持っていた為に、交友関係は限定されていたし、異常な行動のせいで学校全体からは腫れ物扱いされていた。みな内心、姉さんはとっとと病院なり刑務所なりに入れた方がいいと思っていたに違いない。 それもまた姉さんの心を蝕む要因になっていたように思う。 姉さんの友達……それはきっと姉さんと違う異常さを孕んだ人なんだろう。 僕としては姉さんがどうしておかしくなってしまったのかという過程を見てきて、知っていて、その原因でもあった為、姉さんを認め続けるしかできなかった。姉さんが僕をからかった人を学校の窓から突き落としたのも、僕と仲よかった女の子に罵声を浴びせて真冬のプールに放り投げたのも、僕を殴ろうとしたあの人達が動かなくなるまで殴り続けたのも、僕は認めてあげなくちゃならなかった。僕が守ってあげなくちゃならなかった。 そうでもしなかったら、姉さんはずっと、一人だっただろうし。 そう思うと僕も姉さんと違う異常を孕んでいたのかもしれない。 僕は姉さんの為に、姉さんは僕の為に。 互いを心の奥底では憎んでいて、嫌っていて、憎悪していて、でも姉さんが……あるいは僕がいなければ僕らは生きていくことができなくて、大切で。 なんて、なんて利己的なんだろう、僕らは。 自分が一番で、自分を守る為の手段として他人を自分よりも優先する。利己的で利他的だ。 でもそうなければ僕らは生きていけない。 だから。 PR 「秋本くん秋本くん秋本くん秋本くん秋本くん秋本くうん! ワタシねえ、知ってるよう」
人の悩みは尽きることがないという。確かにそうだなあと思う。尽きることがあればどんなに楽だろうか。 秋本くんの家から逃げ帰ったワタシは秋本くんを見る度に疑問と吐き気に忙殺された。彼の教科書やノートを潰す作業も手に付かないほどに、ワタシはワタシの中に巡る疑問に悩まされいる。 そう、疑問……疑問だ。 ニコニコ笑ってる秋本くん、真面目に授業を受けてる秋本くん、今日はペンがあるんだと笑う秋本くん。果たして彼はあの扉の向こうにある“モノ”のことを知っているのだろうか? 自分の姉の部屋にある“モノ”のことを理解しているのだろうか。 知らないはずはないと思うけど、秋本くんはワタシの斜め上を行く馬鹿なので、もしかしたら知らないのかもしれない。 違うな、うん。 ワタシはできれば秋本くんに知っていてほしくないと思っているんだ。秋本くんが扉の向こうにあるものを理解していて、それでいて、こうやって笑っているということを信じたくないんだ。 そんな恐ろしいこと、信じたくない。 でも、そうすると秋本くんは何故、貧乏なんだろうという疑問が湧いて出る(ワタシの想像通りならという前提で)。 秋本くんは本来、御曹司とかいう奴のはずで、コンビニの廃棄弁当を食べているような立場の人間ではない。 秋本くんから拝借した財布の中にもお金は殆どなかった。秋本くんの出すゴミの中を調べても妙に生活感のあふれるものばかり。庭には小さな家庭農園なんかあるし。 何故、お金がないのか。 何故、ゴミは殆どが秋本くんのもので、姉のものがないのか。 何故、何故秋本くんの両親は家にいないのか。 いろいろな疑問が脳内をぐるぐると駆け巡り、ワタシはひとつの答えに行き着いた。 どーでもいいや。 秋本くんが知っていても知らなくても秋本くんは秋本くんだし、あの姉がトチ狂って誰か殺してしまったのだってどうでもいい。何を食べてて、どう狂っているのかだってどうでもいい。近寄らなければいいだけだし。 それよりもワタシに重要なのは秋本くんのことが好きってことだけ。秋本くんとラブラブのイチャイチャのドロドロになりたいってことだけ。 いろいろ考えすぎて、疲れたワタシは元気よく秋本くんを脅して、元気よく秋本くんの心を犯した。 ∴ HDDの肥やし。 「君が死ねば世界は救われる」
そう言われたら君はどうするだろうか。 今まさに目の前に自分を殺すための装置があって、その機械によって数億数万の人間が救われると言われ、みな自分の死を祈っているという状況に出くわしたら君はどうするだろうか。 愛する人もそうでない人も、とにかくみな私の死を願っていて、私からの望んだ死という歪な形を願っていて、その為に優しくし、暖かい言葉を投げかけ、一生懸命、世話を焼いてくれるとしたら君はどうするだろうか。 死んでほしいという一心から私の死を願っているとしたら。 当初こそ親は泣きはらしたが、結局は政府から宛てがわれた莫大な保証金の為に私の死を当然のこととして取り扱い、人類の犠牲になることを素晴らしいことのように語った。友人は死んでしまうのだからと私にいろいろと世話を焼いてくれて、優しくしてくれて、いろんなことを助けてくれ、死んでも忘れないと言った。見たこともない人や聞いたこともない人が私のもとに訪れ、シャッターを切り、通訳が言葉を訳し、ビデオカメラが回され、スポットライトが浴びせられた。 私の住む町には巨大な私の象が立ち、私の死ぬ日は世界的な記念日となり、私はカトリックだかプロテスタントだかイスラムだか仏教だか、よく分からない宗教群の中で聖人として認められることになった。 市や国は私の生い立ちから私の今日までを徹底的に調べ上げ、何時どんなことをいい、どんなところでどんな失敗をしただとか、若かりし頃のありもしない逸話をでっちあげ、まるで偉人のように祭り上げ、それを本にして発行した。 来る日も来る日も人が訪れ、私のどうでもいい些末な願いは叶えられ、崇められ、英雄のように扱われた。最初こそ疑問を感じていた私も、その内に「そうか、私が死ぬことは偉大なことで、人類の為になる素晴らしいことなのだ」と思うよになった。今、思えば錯覚だ。 人はみな私が死ぬために、死んでほしいが為にそうしたに過ぎない。そうすることで彼らは私よりも数十年ほど長生きできるからという、そんなつまらない理由でだ。 私はこの十字架のような特殊な機械で両手のひらと足の関節を打ち抜かれ、苦悶に歪む表情を世界中継によって人々に知らしめなければならない。麻酔もなく、ただ脂汗を額に浮かばせ、歯ぎしりする姿を無機質なカメラによって晒さねばならない。 カメラの側に置かれた液晶に浮かぶ世界の人々の期待に答えねばならない。 ただ死ねという期待に。 しかし、まだ私はそれだけでは死ねない。 最後に特殊な矛状の機械によって肋骨と肺によって覆われた心臓を串刺しにされなくてはならない。その死によって世界は救われる。 血反吐を吐き、苦しみながら、それでも人類のために早く死のうとする私の姿を世界にみせなくてはならない。人類の為に。 人類というちっぽけな存在の為に、どうでもいい人間たちがたった数十年長生きしたいが為に私という存在が半世紀半にも満たない時間で終わりを告げねばらなない。 後の者は苦しみも幸福もあり、それら味わえるだろうが、私にはそれがない。その端の端きれすら触れられない。 それが何とも何とも私には耐え難く、羨ましく、憎ましく思えた。 私は今この時を持って死ぬだろう。世界や側にいるスタッフは私が自分から望んで死んだと思い、喜ぶだろう。冷蔵庫の冷えたビールでこの後、祝杯を上げるのかもしれない。 そうはさせてなるものか。私は微笑んで、死ぬ。世界のみなを案ずるように死ぬ。しかし、その裏には憎悪と生への渇望を抱きながら、人類を呪いながら死ぬのだ。 死にたくないと思いながら。 私の死を確認した後、彼らはきっと驚くだろう。世界が救われておらず、その為の術もないと知ってきっと。 ああ、それが楽しみだ。私の人類に対する復讐。私の死を願い続け、私に死ぬ以外の価値を見出させなかった人類に対する呪い。 息も思考も続かない。 ただ私は微笑んで、息を引き取る。 ∴ 私と数学と彼。 「お前の姉は一体、普段何を食べて生きているんだ?」
彼はなかなか靡(なび)かなかった。金額を釣り上げても、現金をチラつかせても、手淫で弄(もてあそ)んでみても、なかなか解答を提示しようとはしなかった。 古い格言には沈黙もまた答えなり、という言葉があるそうだが沈黙が答えであると納得出来るほど私の精神は発達していない。 あまりにも不動であった為、好きな相手がいるのだろうかと疑ったこともある。 常日頃、彼の周りを若いだけが取り柄の頭の悪そうな小娘が、キャンキャンと犬のように吠えづり回っており、彼もそれを鬱陶しそうながらも若干許容している風だったのだ。 私は別に恋人の地位が欲しいわけではない、もしもそういうことで遠慮しているなら考えなおして欲しいと伝えると彼はいつものように困った表情で笑い、それを否定した。私が嫌いということでもないらしいが、答えが明確化していけばしていくほどに私の鬱積は積もった。 では何が問題なのか、と。 半ばホームレスのように暮らして、賞味期限が切れた食べ物で飢えを凌ぎ、いつ死ぬか分からない生き方のほうがいいというのか、と。 別に痛みを伴うことをするわけじゃない。生物学的にいえば彼には得と快楽しかないし、痛いのは寧ろ私の方だ。 私の容姿が問題なのだろうかと悩む。私は確かに美人というわけではないが、それなりに女性的な肉体をしていると思うし、それなりの体をしていると自覚しているつもりだ。いや、そういうのが嫌いなのだろうか、幼児性愛者なのか。 しかし、彼は違うという。 では何なんだと私が少し強い口調でいうと彼は頬をかいて“そう関係で、そういうお金の稼ぎ方はよくないから”だと言った。不純で健全ではないからという答え。 呆れながらも彼らしい解に私は何もいうことができなかった。 自分のルールの為に彼は死ねるのだ。それが飢えてしまい、誰もが後悔する解であっても彼はそれを選ぶ。 私はああ、駄目なのかと思い、半ば諦めかけた状況でふと彼の姉のことを聞いた。不思議だったのだ。いつも彼は自分の分しか廃棄の弁当を受け取っておらず、持ち帰っていなかった。また、彼女の姉がそれをしているところを見たこともなかった。 だから、自然に言葉が出た。 お前の姉はいつ食事をしているのか、と。 その言葉を聞いて、彼の表情が明らかに変わった。 |
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幸せになりたいと思うけど、幸せを手に入れた瞬間、幸せを失うことを意識しなければならない。いつか消えてしまうことに怯えなければならない。だったらずっと不幸のままでいい。
あとネットで小説とか書いてます。ヤンデレとか好きです。
∴ プロフィール
HN:
鬱
年齢:
125
HP:
性別:
非公開
誕生日:
1900/06/07
職業:
ニート→ライター(笑)→ニート
趣味:
読書、アニメ、映画鑑賞、引きこもること
自己紹介:
幸福論でいけば確実に不幸な人間です。それに加えて変人です。自分ではそうは思わないのですが、みんなが口を揃えて変人というので多分そうです。人間関係苦手です。そんな名古屋人。
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